はじめに
ETマスターは、松下電器産業株式会社 (現パナソニック; 以下「松下」)のBTRON1実装で、80286 を搭載したFMR-50系のパソコンで動作する。 時期的には1991年の1B/Note [chokanji.com]や1994年の1B/V より前に世に出ていたBTRON の実装ということになる。 松下は富士通FMR-50 のアーキテクチャでPanacom M353HDなどのPanacom MシリーズのFMR-50互換機を設計・製造していて、 たとえばFMR-50LTは松下設計で富士通にOEM して富士通の機種としても販売されていた。 こういった状況下で松下がOS を作るとなると自然とFMR-50系が要件ということになったのかと思われる。 FMR-50 は言わずと知れたアーキテクチャで、のちのFM TOWNSはBIOS レベルでは概ねFMR-50系の上位互換である。
松下はTRONCHIP MN10400の実装も行っており、TRON プロジェクトとの関わりはあったようだ。 なお、富士通もMCUBE に搭載されているGMicro シリーズのTRONCHIP を実装している。
動作の要件としては、上記286 搭載のFMR-50系ということに加え、プロテクトメモリが 3 MBytes は必要なようだ。 つまり286 で16-bitのプロテクトモードを使っている実例ということで、実装面でXenix 286とOS/2 1.x に並んで当時としてはハードウェアの機能を生かした夢のある環境だったといえる。
誰がいつ作ったのか問題
私の手元にある「ETマスター」のディスクは5枚組の3.5型 2HD (1.2 MBytes)フロッピーだ。 それぞれディスクのラベルに書かれている品番と権利表記をまとめたのが下表だ:
品番 | タイトル | 権利表記 |
---|---|---|
WE-AS400 | ETマスター | (C)松下電器産業株式会社 1987, 1990 (C)松下通信工業株式会社 1987, 1990 |
WE-AS401 | ET基本エディタ | (C)1978-1990 Personal Media Corporation |
WE-AS402 | ETユーティリティ | (C)松下電器産業株式会社 1987, 1990 |
WE-AS421 (EAS421FK1) | 日本語Guide/ET (プログラムディスク) | (C)情報処理振興事業協会 1987, 1990 (C)1987-1990 OWL International Inc. (C)1987-1990 M.P.Technology Inc. (C)松下通信工業株式会社 1987, 1990 |
WE-AS421 (EAS421FK2) | 日本語Guide/ET (サンプルディスク) | (C)情報処理振興事業協会 1987, 1990 (C)1987-1990 OWL International Inc. (C)1987-1990 M.P.Technology Inc. (C)松下通信工業株式会社 1987, 1990 |
この中で松下電器産業株式会社、松下通信工業株式会社が出てくるのは松下の製品として特に不思議な点はない。
ET基本エディタ
の著作権表記がPersonal Media Corporation
となっていることはここで気づいておいて良いところで、
MCUBEの3BではPersonal Media Corporation のの単著になっている。
実際にはUI がしっかりと仕様で固められているので、外見だけからだと1B でも3B でもほぼ変わらなく利用できるのではあるが、
ETマスターでの実装経験がその後の永く続くPersonal Media CorporationからのBTRON 実装に繋がって行ったのだろうか。
日本語Guide/ETの権利表記にある情報処理振興事業協会というのもこの手のソフトウェアのコピーライトでは珍しい顔ぶれと言えそうで、 後述するがこれはどうやらETマスターが教育用途を視野に入れて作られていたことに関連するのではないかと思っている。
インストール (未完)
ここでは、FMR-50LT に2 MBytes のメモリボードを接続した状態でインストールを試みた様子を紹介する。 なにぶん古いものなので、特にボードの端子は接触が悪くなっている場合も少なくない。 手元で試す場合はリレークリーナーでメモリボードの端子をきれいにしておくことをお勧めする。
WE-AS400 ETマスターのフロッピーを入れて電源を入れる。 メモリカウントが終わるとフロッピーを読んですぐ、下の読み込み中画面になる。
しばらく待っているとスプラッシュ画面に遷移する。 この画面の情報量が多い。 ハイパーメディアラボPanaCAL ETとはなんぞや?ということになるが、これは松下の教育分野向けのデスクトップ型PCのパッケージだったという話 [narapress.jp]があり、だとするとPana はPanasonicとしてCAL はComputer Assisted Learning の略ということになるだろう。 この用語は当時流行っていたのだろうか。
そのまま待っていると辞書がないのでかな漢字変換ができないと言われる。 とりあえず続行を押すしかない。
ここまで終わると初期ウインドウが開く。 ユーザ環境設定の小物だけが利用可能。 起動してしまうとディスクアクセスは少なく、画面書き換えもまずまず快適な速さで動いている。 286 の8 MHz で動いているとは思えない。
ここでおもむろにWE-AS402 ETユーティリティのディスクに差し替える。 最近の感覚からすると違和感があるが、起動ディスクを抜いてしまっても問題なく動作しつづける。 Macintosh もSystem 6くらいまではこういう運用ができていたように思う。
ETユーティリティではBTRON でおなじみの各種小物が用意されている。 この中のHDインストーラを実行していく。
HDインストーラでは最初にHDの区画設定画面になる。ここはかなりUIが凝っているのか、書き換えにそこそこ待たされる感じはあった。 ちゃんとバックアップしてあるので心配なく削除を選んだ。
ここでET区画登録をすると、なぜかユーティリティディスクをドライブ1 に入れるように言われる。 FMR-50LT にはFDD が一台しかないのでここから先に進めていない。 MS-DOS のSETUP.EXE で何かいい感じに設定しておく必要があるのだろうか。調査中。
先へのすすめ方として、何かうまくいく設定を見つけるか、またはFDDが2 ドライブあるFMR-250L4で試してみるというのを計画中。