ErgoDashの作例

omkbd ErgoDashが光っている様子の写真

自作式の分割キーボードの一つであるomkbdさん作のErgoDash (以下ErgoDash)を組み立てて使っているので、私はこう使っています、というのを紹介。

ことの発端

ある日、破損したキーボードをいただいて、そこにCherry MX赤軸スイッチがはんだ付けされていたのを取り外した。 Cherry MX赤軸は私からすると高級なスイッチで、このスイッチを有効活用するため、これまで使ったことのないタイプのキーボードを作ってみようという気持ちになり、人気のキーボードの形態の一つである分割キーボードにチャレンジすることにした。 私としてはYMDK YDF60MQに続く2つめの自作キーボードだ。 分割キーボードは、右手側と左手側を離して置くことができるため、腕を不自然に閉じた状態でタイプしなくて良くなり、肩こりに効くという噂があり興味があった。

遊舎工房で分割キーボードのキットとして売られている中で、そこそこキー数が多く普段使いできそうなものから選んだ結果、ErgoDashを作ってみることになった。 分割キーボードとしては、Let's Splitを代表とする全てのキーが格子状に並んでいるものや、通常のキーボードと同じくそれぞれの行が左右にずれているものもある。 今回作ったErgoDashは、既成品の有名所だとTRONキーボードTK1や、名前がやたらカッコよいZSA Moonlanderと同じく、それぞれの列が上下にずれていることで、指の自然な動きにあっていそうな雰囲気のタイプだ。

部品表

キット – 遊舎工房, ErgoDash — ¥14,300
基板、アクリルボード、マイコンボードPro Micro×2などが一括で買えて便利。
TRRSケーブル – 遊舎工房, TRRSケーブル 1m — ¥330
キーボード左右を接続するケーブル。 もっとおしゃれなのもあるかも。
キーキャップ – AliExpress — $13.04
PBT Keycap 127 Key XDA Highly Profile Personalized Keycap Dye Sublimation for Cherry MX Switch For Gaming Mechanical Keyboardという商品名で売られていた。 AliExpressらしく、商品名の情報量が少ない。 XDAプロファイルという、行によって高さが変わらない種別のもので、今回のようなそこまで一般的ではない配列で利用するときは便利なほか、今後Dvorak配列やColemak配列に挑戦したくなった場合でも自然に利用可能という利点もありそう。
LED – 秋月電子, WS2812B−B — 24個で¥600
遊舎工房で売っているのとは異なり、発光部分の周囲が黒いものを選んだ。 基板裏側は普段見ないので全く見た目には変化がなさそう。

以上、部品だけだと組み立て時点の為替レートで合計¥17,000くらいで済んでおり、まともなキーボードを入手する費用としては低め。と思うことにした。

レイアウト

Ergodashで使っているキーマップ
設定しているキーマップ。上がそのまま押したときキー。下がMO(1)(左下)を押し込んだときのもの。

ErgoDashはキーが70個もあり、特別な工夫をしなくても、日常生活に必要なキーを一通り割り当てることができる。 したがって、キーマップ(レイアウト)を決めるときに考慮するのは、どのように普段使うキーを配置するかというより、頻繁に使うキーをどのように届きやすい場所に置くかということだった。 私の場合、部分的にTRONキーボードTK1を参考にしつつ、自分のくせに合わせて以下のような工夫をした。

日本語入力に関しては、英数KC_LNG2, かなKC_LNG1が送られるようにした。 これはMacintoshの日本語キーボードでは一般的なキーコードで、ワンタッチでIMEの状態を希望の状態にできて便利だ。 macOS Ventura では、英語キーボード設定でもこれらのキーは期待したとおり動作している。 Microsoft Windowsでも最近のものはこれらのキーをImeOn/ImeOffという名前で認識 [microsoft.com]して、英語キーボード設定時でも追加の設定無しでIMEの状態を切り替えられるようになっていることを手元のWindows 11にて確認できた。 X11 (X.org) を利用するLinux環境では、Anthyやmozcの設定画面ではこれらのキーをそのままでは認識しなかったので、.Xmodmapで以下記述をして無変換, 変換に置き換えることで利用可能だった。なお、IBusとmozcの組み合わせでは、IME切り替えキーの変更の適用には再ログインが必要。

keycode 131 = Muhenkan
keycode 130 = Henkan

Wayland環境では特に追加の設定なくAnthyの設定からHangul_Hanja, Hangul として認識されて利用可能だった。 どうやら韓国語環境では以前から一般的なキーのようだ。

以上のように、私が普段使うOS全てで、英語配列キーボードでの日本語入力切り替えの際に、同じキーで同じ動作にすることができて非常に便利になった。

キーがたくさんあるので、左下あたりがちょっと余り気味で、ブラウザの戻る・進むボタンやCaps Lockも入れてしまった。 この辺は活用の余地がありそうで、今後便利な使い方を見つけていきたい。

ファームウェアのビルドと書き込み手順

QMK Firmwareeは、Linux環境では、Dockerまたはpodmanがあれば簡単にビルドできる。 ErgoDashのdefaultレイアウトなら、

./util/docker_build.sh omkbd/ergodash/rev1:default

でomkbd_ergodash_rev1_default.hexができる。 書き込み方法はキーボードによって違いがあるが、ErgoDashだと、左右それぞれで、USBで接続してからPro Microのリセットスイッチを押し、10秒以内に

avrdude -p m32u4 -c avr109 -P /dev/ttyACM0 -U flash:w:omkbd_ergodash_rev1_default.hex:i

を実行することで書き換えることができた。 avrdudeはOpenSuSE Tumbleweedではzypperで利用可能。

LED

キーボードの装飾用のLEDは、ちょっと冷静なふりをして考えると必要ないように思えることもあるかもしれない。 私も以前はそう考えていた。 一度光るキーボードを使ってからこの考えは大きく変わり、悩んだり辛いことがあったりして視線を下に落としたときに、美しく光るキーボードがあるとそれだけで元気で明るい気持ちになるため、今では光らないキーボードを利用することは考えられないくらいだ。

ErgoDashでは、キーキャップ側を単色で光らせる(QMKのことばでいう)Backlightと、裏面を光らせて机を照らすRGB Lightingに対応している。 今回のビルドでは、利用するキーキャップが光を透過しないこともあり、RGBだけ実装した。 24個のフルカラーLEDが手元を照らし、かなりきらびやかな雰囲気の机になる。

Ergodashのunderglow LEDの様子
背面にはRGB LEDを24個搭載。机側を照らす、いわゆるUnderglowになっている。

QMKのマニュアルを読んでいたところ、Lighting Layersという機能を使うことで、Caps LockやScroll Lock有効時に好きな場所のLEDを光らせることができることが分かった。 Caps Lockで左下のLEDが赤くなるようにして、うっかり誤りでCaps Lockを押しても楽しい気持ちになるようになった。

Lighting layersを利用してCaps Lock時に赤く光るように構成。
Caps Lock時に左下のLED 4個が赤く光る。

Tenting

キーボードが打ちやすいように傾斜をつけることをTentingというらしい。 私が買ったErgoDashのキットは、アクリル板スタイルのもので、そのままでは傾斜をつけるような仕組みは一切なかった。

試しに適当に傾斜をつけてタイピングしたところ、たしかにある程度持ち上げたほうがタイピングが楽になる感じはしたので、ホームセンターとか手芸店でアクセサリ自作用に売っている「SEED お湯でやわらかくなるねんど イロプラ」という熱可塑性樹脂で、ぴったりな高さの足を作って両面テープで貼り付けた。 1袋80円を3袋使うだけで済んでいる。 思ったより良い感じだ。

Ergodashキーボードの裏側に熱可塑性樹脂で作った足を貼り付けた様子の写真。
Tentingしている様子

イロプラは、熱湯にしばらくつけておくとドロドロになるプラスチックで、比較的低温で溶けるので加工が簡単なのが特徴。 この足を作るにあたってはまず球を作って、それを大小2️つに切断。 両面テープで貼り付けるためには断面が平らである必要があるので、柔らかくなった樹脂を金属板に少しだけまとめて置いておき、切断した球体をそこに押し付けるようにして成形した。 3Dプリンタに慣れている人はそちらの方が簡単で精度は良いかもしれない。

使ってみて

実際使ってみると、自分がQWERTYキーボードを我流でよくわからない打ち方をしていた部分が矯正されていくのを強く感じる。 最初の3日くらいは特にCの打ち間違えが頻発して、これは部分的には行が半分ずつずれている配列に慣れてしまっていたことによるものだった。 Enterやスペース、Shiftが通常と異なる場所にあることは、思いのほか気にならず間違えも少なかった一方、自分の親指をは思っていたより器用ではなく、Backspaceを押したつもりで日本語・英語の切り替えをしてしまったりすることはまだ発生している。 従来のキーボードでは親指はスペースバーに対応していたため、場所を決めて打つことに全く不慣れであった。

使用開始から一週間くらいたった執筆時点で、概ね普通のキーボードの7割くらいの速度で打てるようになってきた。 ちゃんと教科書的なホームポジションで打てるようにもなってきているため、ErgoDashで鍛えると普通のキーボードでも速く打てるようになりそう。 特に、これまで薬指や小指を限定的にしか使っていなかったところ、ErgoDashだと明確に役割が与えられており、器用さは確実に向上しているのを感じる。

分割キーボードにしてみて、キーを打つときの姿勢は良くなったように感じているが、現段階では肩こりの軽減にはつながっていない。 肩こりは別の原因なのかも。 またはもう少し長い期間使わないと変化が現れてこないものなのかもしれない。

一番上の行の数字キーは、キーボード自体に傾きが少ないこいともあってか遠く感じている。 もちろんあって困ることはないし、ちょっと指を伸ばす漢字にはなるものの問題なく押すことはできる。 次は3行の分割キーボードにチャレンジしてみても良いかもしれない。

おわりに

初めての分割キーボードとして、ErgoDashは十分満足できる実用性と個性を兼ね備えたキーボードだった。 自作キーボードとして、使っていく中でキー配列の調整などを行うことができるため、長く活用することができそうだ。