2023年に発売されたZzxio McIDEは、International Business Machines (IBM) Micro Channel機(MCA)用のIntegrated Drive Electronics (IDE)インターフェースカードだ。
こんなページにたどり着いてしまう人に説明は不要かもしれないが、このカードはIBM Personal System/2 (PS/2)シリーズを保守する上で非常に貴重なパーツになる。 というのも、一部のPS/2シリーズのHDDは、ドライブの裏側についているコントローラの基板までMicro Channelの信号を伸ばしてくる設計(DBA-ESDI と呼ばれている [ardent-tool.com])になっていて、この設計自体はIDEがATバスをそのまま伸ばしてきていたり、NVMeがPCI Expressをそのまま伸ばしてきていることと比較してそこまで違和感があるものではないのだが、案の定Micro Channelがあまり一般的にはならなかったことで、交換用のHDDの入手がほぼ不可能という状況になってしまっていた。 PS/2用のHDDは品種もそこまで多くなく、運が良く何台か交換用のドライブを保管していても、持っているもの全てが同じようにモーターの回転数が上がらなくなる不良で使用できないという状況に私はなった。
もちろん、MCAのSCSIホストバスアダプタは当時から存在していて、これを利用することも可能ではあるのだが、ある程度数が出ているカードはSCSI側のコネクタ形状が特殊または専用で、今から交換部品として利用するには、専用ケーブルの入手性から考えてあまり使い勝手が良いとは言いにくい。
McIDEは、一般的なIDE接続のHDDをPS/2で起動ドライブとして利用可能にしてくれる、個人開発のいわゆる同人ハードの一種(だと思う)。 ボード部品面はこんな感じ:

主要なチップとしてXilinx XC9572XLが使われている。 Micro Channelの信号との間には74HCT245,または 74HCT573が挟まれていて、自前でこういうボードを作るときの参考になりそう。 ROMはAM27C256で、傷の感じから、再生品かなと感じた。 アクセスランプがCHANNEL Bのコネクタの上側に配置されていて、アクセス時に赤色に光る。
半田面は下図の通り、何も実装されていない。3Dプリントされたブラケットが美しい。

ROMには、XTIDE Universal BIOS (XUB)が搭載されている。
これは幅広い機種でIDE接続のHDDから起動するために使えるソフトウェアで、McIDEにはPS/2用に改造されたものが搭載されている。
手元のカードではビルドはr624 (2023-02-27)
となっていた。
1980年代のシステムの起動メッセージに2023年のビルド日が出るのがちょっと面白い感じになった。
現在、このカードはIBM PS/2 Model 55 SXに挿して使っている。 せっかくなのでHDDもIBMで揃えてIBM DJAA-31700 (約1.7GBytes)を繋いでいる。 この構成で、PC DOS 2000とOS/2 2.11の両方で起動ドライブとして利用可能で、さらにSystem Commander 2000でデュアルブート構成にすることも可能だった。 MCAの仕組み上、一旦設定さえしてしまえば、通常の0x1f0あたりのI/O portにドライブが見える感じになるようで、BIOSを叩くだけのPC-DOSはもちろん対応できるとして、IDEに対応しているオペレーティングシステムであれば概ね問題なく利用できるようだ。 一方、AIX PS/2 1.3では、ESDI/SCSI用のどちらのインストーラ起動ディスクをつかってもHDDを認識してくれなかった。
利用する上での注意点として、MCAのHDDはネジ穴の位置が一般的なHDDと大きく異なるので(下図参照)、マウンタに穴を開ける必要がある。 また、McIDEからHDDへと接続する電源延長ケーブルが、カードの通常の高さよりかなり高くなってしまうため、McIDEの上には長いカードを設置するのは苦労するかもしれない。 Model 55 SXでは、一番上のスロットにMcIDEを刺すと、ケースを閉めたときに若干ケースと干渉している感じはあるものの、ちゃんと電源ケーブルを曲げておけば動作には支障はなかった。 電源容量も注意が必要で、例えばPS/2 Model 55 SXの電源はわずか90 Wなので、ちょっとあとの時代の消費電力が大きいHDDだと、起動時に瞬間的にたくさん流れる電流を供給しきれなくなったりする。 この場合他の拡張ボードを抜くなどでシステム内のトータルの消費電力を下げる必要がある。

ということで、MCAのマシンを持っていて、どうしてもAIX PS/2を使いたいという場合でなければ、今後の部品の入手性から考えても一枚持っておいて損はないカードなので、まだ買っていない人は今すぐ買いましょう。
よくある質問とその回答
個人輸入した?
はい、Zzxio さんのサイトに日本の住所を入れて、国内の銀行のデビットカードでドル建てで決済。 商品が$65.00, 送料が$30.55, 合計$95.55 が当時の請求金額。
印刷されたマニュアルも注文したほうが良い?
マニュアルは当時のIBM の雰囲気をうまく再現していて、あったらコレクター魂としてはうれしいかもだが、動作させるのに必須ではない。
ケーブルは注文したほうが良い?
一般に国内で調達したほうが安価になりそう。 リサイクルショップで探すか、もしかするとあなたはすでに古いマザーボードやケースの付属品として倉庫の中に持っているかもしれない。
ブラケット部のおすすめの色は?
私のおすすめは青。 Micro Channel のカードはしばしば青いタブがついているし、 S/360ともお揃いの色なのでかわいいと思う。
ドライバディスクは必要?
Micro Channel カードとして、初回起動の際のカード設定にADFファイルが必須。 ADF は公式サイトで頒布してくださっている [zzxio.com]ので、これを何らかの方法でリファレンスディスクに書きこめるなら、ディスクの注文は必須ではない。 リファレンスディスクは通常のPC DOSフォーマットのフロッピーなので、フロッピードライブがある動作するマシンなら何でも書き込みはできそう。
手持ちのマシンの空きスロットに設置可能かわからない
Micro Channel のカードは特殊機能を除いて後方互換になっていて、McIDE は16-bit Micro Channel アダプタであり、これは最小構成といえるバスであるため、理屈の上ではどのスロットでも利用可能 [1]。 その際スロットの前後のピンが余る感じになるが気にしなくてよい。 電源コネクタの向きから、カード部品面方向にある程度の空きスペースが必要なので、そこは別途考慮が必要。
たまに認識しなくなりリファレンスディスクを要求される
スロットの端子の汚れが原因でこういうことはしばしば発生すると分かっていて、35 年近く使っていなかったスロットなので汚れや多少の錆びは着いていて当然ということもありそう。 私はサンハヤトの「ニューリレークリーナー」という製品でこの手のスロットを掃除するのが、樹脂の腐食などの害がなく一番効くと思っている。 洗い流す感じで使って、若干液体が残っている状態でカードの挿抜を1、2回すると接触が良くなることが多い。
参考文献
- 日本アイ・ビー・エム株式会社, IBMテクニカル・シリーズ⑰ IBM PS/55ハードウェア ハードウェア・インターフェース 技術解説書. 1990年11月25日. オーム社. ISBN 4-274-07626-1.